tsshare’s diary

日々思ったことをあれやこれや・・・・・・・

福岡市天神発、無料タクシーの法的な位置付けについて考えてみる。

 

車内広告を収益とした無料タクシーが福岡市天神で始まるようです。これは「nommocノモック」というプロジェクトでもちろん日本初です。

広告を収益とした無料タクシーの構想はこれまでにもありました。しかし、それらは自動運転車両が実現すれば、の話しでした。

直ちに、運転手付きの無料タクシーが可能などとは誰も考えなかったでしょう。まさに実現すれば快挙です。

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ところで、この無料タクシーは法的にどのような位置付けで行われるのでしょうか。詳細については、「nommocノモック」からは伝えられていませんが、一部報道の中では、「施設の無料送迎バスに倣っている」との説明がありました。

これを根拠に、検討してみたいと思います。

 

 

報道では、無料タクシーと書かれていますが、実際はタクシーではなく白ナンバー車両による無料送迎でしょう。その為、利用者から料金を徴収する事は道路運送法上できません。

 

今回のモデルが利用者への広告情報の提供である事を考えると、乗車時間は10分程度ではないかと思います。1台の車両で多くの人に利用してもらうには乗車時間を長く設定する事はできません。また、利用者もあまり長い間広告を見せられれば飽きてしまうでしょう。

 

以上を踏まえると、地域を福岡市天神と限定し、その地域内に複数個所の商業施設(乗降場所)を設定します。この複数の地域間に限って無料運行を行います。イメージとしてはイオンなどの商業施設が自ら1企業で無料送迎バスを運行させるのに対し、複数の商業施設で無料送迎タクシーを共有し、地域内を自由に移動する事を可能にするものではないでしょうか。

 

このように考えれば、今回の「無料タクシー」は道路運送法に抵触せず運行が可能なようにも思えます。

 

しかし、以前にこれも福岡で行われた「みんなのウーバー」実証実験は、国交省の指導の下中止されました。

この実証事件も利用者から金銭を収受しませんでしたが、実験データと称して代わりにウーバーから運転手は料金を得る予定でした。これは、運転手の側から見れば、利用者から料金を貰う代わりにウーバーから貰っており、理由や名目はどうあれ、運転手が客を送迎し、第三者(ウーバー)から金銭を受け取る事は道路運送法上白タク行為に該当する、というのが国交省の判断です。

 

今回の無料タクシーの事例とみんなのウーバーの事例とは同じではありませんが、国交省が何らかの指導を行う事は十分に考えられます。

 

しかし、一方で次のようにも考えることが出来ます。

 

日本中でNPOやボランティアによる、高齢者を対象にした無料送迎は行われています。この際、地元企業などがこういった活動に理解を示し協賛金を提供する事も行われています。そのお礼として送迎車両の内外にその企業名を入れて宣伝活動を行う事もおかしなことではありません。

このような行為を道路運送法に抵触する行為であると国交省は主張しにくいのではないでしょうか。

 

以上のように考えれば、今回の「無料タクシー」は法的に実施可能ではないかと思います。

 

ところで、今回の「無料タクシー」について、もう一歩踏み込んで考えてみましょう。

 

今回の「無料タクシー」では、利用者はもちろん金銭は渡してはいません。しかし、全く何も払ってはいないのでしょうか。

 

考え方では、利用者は自らの「10分間」を提供し、その見返りに移動サービスを受けているとも言えます。

道路運送法では、金銭と等価のもののやり取りは有償であるとみなします。金銭の代わりに金券のやり取りをしてもこれは有償にあたります。代わりに畑でとれた大根は有償には当たりません。

今回のような利用者の時間が金銭と等価であるかどうかは、国交省の判断待ちになるかもしれません。議論として興味はありますが、国交省が時間と金銭が対価であるかどうかを議論することは適当でしょうか。

 

仕事の成果ではなく、労働者を拘束すればその時間によって残業代は発生します。そう考えればまさに時は金なりかもしれません。

 

考えれば考えるほどわからなくなりますが、今回の「無料タクシー」を禁止する場合は、どのような理屈を持ってきても屁理屈のような感はぬぐえないのではないでしょうか。

 

この「無料タクシー」と言うプロジェクトに最も魅かれるのは、その影響力の大きさにあります。このプロジェクトが成功し拡大すれば、明らかにタクシー事業者への影響は必至です。既存のタクシー事業は縮小せざるを得ないでしょう。

 

私たち利用者にとって無料タクシーの出現は歓迎すべきものかもしれませんが、喜んでばかりはいられません。

 

上述したように、この「無料タクシー」は白ナンバーで行われる以上、タクシーではありません。つまり公共交通ではないと言う事です。現在のタクシーが負っている様な公共交通としての義務や責任はありません。タクシー事業の縮小に伴い、その公共交通としての役割を担う事が出来なくなることは大きな問題でしょう。

 

つまり、これからのタクシーの社会的な位置付けについて議論し方向を決めることが必要です。その際にはライドシェアも含め様々な移動方法についても検討すべきです。

大きなイメージとしては、「無料タクシー」やライドシェアのような新しい移動手段が日常の足をカバーし、そのほかの特別な移動(緊急性・深夜・酔客・冠婚葬祭他)はタクシーが担う社会です。

 

少子高齢化社会を迎え人口減少に伴う国力の低下に対抗する上で、「生産性の向上」は一つの重要なキーワードです。

買い物弱者は700万にともあるいは1,000万人とも言われています。同時に高齢者の交通事故は毎日のように報道されています。

このような状況を改善する役割を持つのがバス事業者でありタクシー事業者です。ところが両事業者にはその力はありません。道路運送法の下にあるバス・タクシーの両事業モデルが現在には合っていないとも言えます。

 

この状況を打破する「イノベーション」が「無料タクシー」であり、ライドシェアでもあります。「生産性の向上」を目指すなら、既存のタクシー事業の縮小についても向き合うべきです。

 

700万、あるいは1,000万人ともいわれる買い物弱者対策には、様々補助金助成金が投入されています。

一方でタクシー事業者数は40万人です。

今後増加する買い物弱者に対し新しい移動手段を提供すると同時に、規模が縮小したタクシー事業者には、公共交通を維持するための援助を行うことを検討してもよいでしょう。